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積ん読王の 自由画帖

〈読み、考え、旅をし、見て、話して、書く〉同時代ノート。

横溝正史のブーム ~面白い小説を見つけるために #6

ルパン(モーリス・ルブラン)から、江戸川乱歩(じっさいには読書体験はなかったのだが)と来たが、ここで横溝正史に触れておく。
thx.hateblo.jp

横溝正史作品もまた、ぼくは読んでいない。正確に言うと、何冊か手にとったんだけど難しすぎて歯が立たなかった。父の本棚には、『八つ墓村』や『不死蝶』あたりがあって、ぼくは何回か手にしてみたという記憶はある。

父は小説なんぞ読まない人だったから、本棚にミステリ(当時の探偵小説)があったこと自体が不思議ではある。おそらくは、横溝正史の作品が「横溝正史シリーズ」としてTV放映されたことがきっかけなんだろうと想像するが、さて。

横溝正史シリーズ」はTBS系で毎週土曜日22時に放映されていた。シリーズはシーズン1と2とに分かれ、前者は1977年4月2日から10月1日まで、後者は1978年4月8日から10月28日までの放送である。
シリーズの最高視聴率は41%も獲得したと知って驚いた。もっとマイナな番組だ思っていた。
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ぼくはこれらをほぼ全部観ていると勝手に思っているが、リストを眺めると初回放送の「犬神家の一族」あたりはどうも記憶が怪しい。子どもは早く寝ろと言われていたが、土曜夜は翌日が休日だということもあって、夜更かしを許されていた。
横溝正史シリーズ」が放映されていた当時のテレビ欄の資料があるが、TBSの19:00から22:00に至る番組ラインナップは素晴らしい。これを観たら、寝るわけにはいかないでしょ(笑)。
f:id:zocalo:20161206163810j:plain朝日新聞出版「横溝正史金田一耕助シリーズDVDコレクション 『犬神家の一族 上』プロダクションノート」より)

けれど、夜遅くまで起きている習慣がない子どもにとっては、22時過ぎはなかなか辛いものがある。きっと途中で寝落ちしたりしていたんだろうなあ。

横溝正史のブームは戦後何回かある。「横溝正史シリーズ」がはじまったのは1976年の映画「犬神家の一族」がきっかけだといわれているが、じつはそのときすでに角川文庫での横溝作品は25点を揃え、総計500万部を突破していたという(中川右介角川映画 1976-1986 増補版』(角川文庫)より)。そのブームに乗っかっての「犬神家の一族」の映画化ということになる。

横溝正史は、しかし、1960年代には忘れられていた作家だった。小学生にルパンと明智小五郎は知られていても、金田一耕助はほとんど知られていなかったわけだ。
だが、後に「犬神家の一族」を製作した角川春樹は、世間の注目が「日本の土俗的なもの」に集まっていることを感じ取っていた。

角川春樹は「少年マガジン」での劇画『八つ墓村』が小学生たちの間でよく読まれていることを知っていた。さらに、当時は国鉄(現JR)が「ディスカバー・ジャパン」のキャッチフレーズのもと、大々的なキャンペーンをしており、日本の土俗的なものへの回帰が始まっていた。その一方、角川は出版エージェントを通じてアメリカの出版事情の情報を得ており、オカルトブームが始まっていることを知っていた。(前掲書)

そのオカルトブームの頂点のひとつが、1973年の映画「エクソシスト」である。
横溝正史のブームの下地は整っていた。

角川春樹は、これからは横溝正史だと、横溝邸を訪ねた。角川はてっきり本人はすでに没しており、遺族と交渉するつもりだったところに、当の本人がでてきてびっくりしたという。(つづく)