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積ん読王の 自由画帖

〈読み、考え、旅をし、見て、話して、書く〉同時代ノート。

【芥川賞直木賞予想 #155-6】崔実「ジニのパズル」を読んでみた

30 自在眼鏡の本棚 33 小説・創作 37 芥川賞直木賞ウォッチ

だけど学校ってのは本当に残酷なところだ。いや、学校というよりは、この世界なのだと思うけど、授業はこの世界と同じように進んだ。

今年の群像新人文学賞受賞作にして、芥川賞候補作。新人賞の選評では、銓衡委員は絶賛している。新人賞発表は2016.6月号で、芥川賞候ノミネートまでは一気呵成という感じ。

主人公は、在日韓国人の中学生ジニ。彼女は日本語は話せるが、朝鮮語は話せない。話せないままに、日本の小学校でのはじめての被差別経験を経て、「日本学校」から「東京で一番大きな朝鮮学校」に編入する。しかしその学校になじめずにある事件を起こして、アメリカの学校へ編入する。アメリカでは高名な絵本作家のステファニーに出会い、自らの成長を遂げるという話。
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小説の設定に妙手を感じる。
前述したように、ジニは在日であるが日本語しか話せない。小説はアメリカのオレゴンからはじまり、日本は過去の時間のなかで扱われている。
彼女は、境界にいるマージナルパーソンだ。どちらにも属し、どちらにも属していない。だから彼女の視点からはものごとは相対化される。
それら小説の建付けが、ぼくには面白く感じられた。
もうひとつ言うなら、相対化される仕掛けのひとつは、ジニが幼くとも精神的には「革命家」であることだろう。だから現実の風景も相対化される。自分の内面と現実世界に所属する自分とのために、彼女自身、格闘するのだ。
民族問題イデオロギーがテーマはもちろんだが、それだけでなく、「学校」という風景も相対化され、つるりとした上っ面の対応に隠された残酷さが浮かび上がってくる。

小説は、そんな企みの複雑と面倒さを抱えながらも、いくらか硬さの混じった文体で生き生きと一人称で語られるが、なにより切迫さが読み手に伝わってくる。
この小説を読むまで、今回の芥川賞受賞は山崎ナオコーラ村田沙耶香かと思っていたが、この小説の登場ですっかり解らなくなった。

個人的には、村田と崔実のダブル受賞と予想する。


ジニのパズル

ジニのパズル