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積ん読王の 自由画帖

〈読み、考え、旅をし、見て、話して、書く〉同時代ノート。

【芥川賞直木賞予想 #155-3】荻原浩『海の見える理髪店』を読んでみた

30 自在眼鏡の本棚 33 小説・創作 37 芥川賞直木賞ウォッチ

※ネタバレあり
直木賞候補作の1発目は、荻原浩『海の見える理髪店』(集英社)を読みました。

短編集です。「家族」をテーマとした6編がおさめられていて、父と息子、夫と妻、祖父母、両親とわたし・・・。6つの家族は当たり前の関係にいるけれど、それはなにかのきっかけで当たり前でなくなっていって、やがてそれぞれの家族の色を帯びて収束していく。

表題作は、海が近い場所でひっそりと開業している床屋。主人公は時代を背負ったその洋館を訪れる。
「ここに店を移して十五年になります」
と店主は切り出し、やがて自分の半生を主人公へ問わず語りに語りはじめる。

よくしゃべるオヤジだなと感じたら、そこには伏線があったんです(笑)。

ぼくが気に入ったのは5作目の「時のない時計」。失業中の主人公は父親の形見を修理にだす。こちらは、町中でひっそりと開いている時計屋だ。見栄っ張りの父親の時計は有名ブランドの名前がはいった、ずいぶん古い時代のもの。あちこちの修理屋で「もう部品がない」と断られたシロモノで、ここでようやく直る見込みがたった。
時計屋との会話で、父親との思い出がアタマを過ぎるが、ひとときの懐かしさは時計屋のひと言で別の側面を見せる。その裏切られ方がほろ苦くて、ぼくは好きです。

全6編は、何気ない日常での、登場人物たちの気持の揺れと気づきと優しさを描いて好感が持てるが、一読これでは獲れないだろうと率直に思った。あちこちで「出来すぎ」の感は大いにある。

ということで、これはまず直木賞候補の基準点となります。

海の見える理髪店

海の見える理髪店