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積ん読王の 自由画帖

〈読み、考え、旅をし、見て、話して、書く〉同時代ノート。

【サンヤツデイリー #47】女優という「業」 ~清水邦夫『楽屋』

30 自在眼鏡の本棚 33 小説・創作

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清水邦夫『署名人/ぼくらは生れ変わった木の葉のように/楽屋』(ハヤカワ演劇文庫)。

地元の畏友である演出家が公演するので、その前に読んでおこうとしたら、
ちょっとちょっと、どこにも置いてないのよ、この本! Amazonも品切れ入荷待ちだし。
なので、あたしゃ走りましたよ。 昨夜、ようやく図書館で借りられました。

この公演はこちら。
http://rinkogun.com/gakuyafes..html

舞台は、ある芝居の楽屋。チェーホフの「かもめ」がかかっています。登場人物は4人。
全員「女優」ばかりですが、うち二人は死んでしまって幽霊となっている女優。あとの二人は生者。
死者たちは、来るはずのない出番を待って、化粧に余念がない。二人とも役がつかずに不遇のまま死んでしまった者たちだ。

二人の会話は軽妙にして漫才風だが、二人それぞれの果たせなかった思いが、やがて会話を荒立たせていく。片方は「かもめ」のニーナ役への未練、片方は「マクベス」のマクベス夫人役への未練。

そんな死者同士のやりとりの最中に現れる、生きた若い女優。現役の「かもめ」のニーナ役の女優である。
死者たちの未練が生者につっかかる。生者は死者とは会話できないが、死者は生者と会話する。楽屋は異界が入り込む魔境だ。
トドメは、マクラを抱えたもう一人の生者たる女優。彼女はあろうことか現役女優に役を交替しろと迫ってくる。その存在は、半分異界に足を踏み入れている。

しかし、現役女優は、もうひとりの生者も含めて異界の者たちの未練をぶっ叩く。

あんたなんて、体験したことないだろ・・・毛穴という毛穴からじわっと血が吹き出すような思い・・・相手を刺すか、自分が死ぬか・・・人間が吼えるってを聞いたことがある? わめくとかののしるとか、そんなんじゃないんだよ・・・アパートのトイレにこもって・・・ひとり・・・一晩じゅう五時間も六時間も・・・あれは人間じゃないよ・・・

そうだ、あれは人間じゃない。
女優という〈業〉だ。