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積ん読王の 自由画帖

〈読み、考え、旅をし、見て、話して、書く〉同時代ノート。

# 216 松下幸之助ライブラリーから感じた、腐らない言葉

30 自在眼鏡の本棚 31 たまビジ(「たまにはビジネス書も読むわよ」)

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松下幸之助松下幸之助ライブラリー 商売心得帖・経営心得帖』(PHPビジネス新書)をようやく手に入れました。
なんだそんなの、Amazonでポチッとすればいいじゃないかという声も当然ありましょうが、先だって読んだ本の中で、

ビジネスをするにしても、人間関係を円滑にするにしても、もっとも重要なのは「常識的であれ」ということなのである。
納期を守る、挨拶をする、少しでも分かりにくい部分があったら補足説明をする、お金をもらったら感謝する---そういったことを実践しておけばそれなりにまともなビジネスマンになっていく。

という一文を見つけたのですが、それを説いていたのが、あの松下幸之助というから、ちょっとぴっくりだったのです。
「経営の神様」と呼ばれるほどの人が、そう言うのかと。

しかも、その本のなかで幸之助本を強く推していたのが、あの中川淳一郎さんだから、余計気になったんですよね( ̄ー ̄)。

中川さんは、会社(博報堂)から独立するときに先輩から餞別として、この本を手渡された。その先輩は彼が「相当な読書家」として社内でも知り渡った方だから、「さぞや名著に違いない」と期待した。

はたして読んでみると、いちいち納得することばかりで、前述の通り松下幸之助は「ただ、常識人たれ」ということを説いているのだと感じたといいます。以来、松下幸之助本はすべて読んでいるとか。

なんてな経緯を知って、この『商売心得帖・経営心得帖』はリアル書店で探してみようと思ったのです。ネットなんぞで簡単に手元に届いてしまっては、なんかバチがあたりそうで。

しっかし、この本、「超ロングセラー」とうたってるわりには、あちこち本屋を巡りましたがなかなか置いてないっ(苦笑)。
ま、ぼくに縁がなかったのでしょうが、ようやく今日手に入れることができました。

ページをひらくと、シンプルな言葉が連なっています。
例えば、「利は元にあり」という章をのぞいてみましょう。

この言葉の意味は、

ひと言にして言えば、利益は上手な仕入先からうまれてくるということだと思います。まずよい品を仕入れる。しかもそれをできるだけ有利に適正な値で買う。

ということ。

そして、結びのほうで、

私は、過去において成功した会社、商売で、その成功の大きな秘訣が仕入先を大事にしたことにあるという例をたくさん知っています。なるほどあの店は成功するはずだ、仕入先を大事にしている、ということをしばしば感じたことがあります。
仕入先を大切にすれば、仕入先のほうでも、"自分をよく理解し大事にしてくれるところには、よい品を易くお届けしよう"といことになりましょう。それが人情というものです。
仕入先とそうした人情の機微にふれる信頼関係を結んでこそ、「利は元にあり」という至言がほんとうに生きることになると思うのです。

と書いていますが、ここにはいわゆる奇を衒ったような言葉はありません。ベーシックな言葉ばかりです。そういうのってなかなか言えないですよね。みんなキラキラした言葉を遣いたがるもの。

でも、キラキラした言葉から、文章は腐っていくんです。開高健の言うとおりです。
そして、同時に書かれたことも忘れ去られていく。

といいながら(逆説の接続詞が多い)、そういうベーシックな言葉って、出会う時期がけっこう重要ですよね。ある程度の年齢とか経験を積まないと、なかなか胃の腑に落ちないんですよね。シンプルすぎるから、目の前を素通りしちゃうんです。

松下幸之助さんのあるエピソードで聞いたことがあります。
ある会社の社長が幸之助さんに揮毫を求めた。いただいたのは「素朴になれ」という言葉。
しかし、従業員は誰もその言葉に反応しなかった。
ある日、他の会社の社長さんが、その揮毫を見た瞬間、深々とアタマを下げたというのです。細部はけっこう違うかもしれませんが、こういう話だったと思います。

コトほど言葉というのは、受け手に依存してしまうんですよね。
そんななかで、幸之助さんの言葉はシンプルでベーシックだからこそ、受け継がれていくんじゃないかと感じました。

ぼくもこういう言葉を紡いで、使っているのはシンプル、ベーシックだけど、言っていることは「他人と違うなにか」を表現できたらなと思います。まるで、村上春樹みたいだ。

さて、この「松下幸之助ライブラリー」、全部で10冊ほどありますから、ゆっくりと探してみたいと思います。