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積ん読王の 自由画帖

〈読み、考え、旅をし、見て、話して、書く〉同時代ノート。

成人の日に、馬のはなむけを

20 同時代ノート

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成人の日。
新成人のみなさん、ご家族のみなさん、お目出度うございます。

成人式なんて、うちの娘と息子はまだまだ先のことですが、みなさんの親御さんもきっとそう思っていて日々を過ごされて、今日を迎えられたのだと思います。
一日一日の積み重ねが、今日という日につながっていったんですよね。
ここに至る、ご自分と支えてくれたご家族の、時間と思い出を、今日という日は改めて反芻してみてください。

以上、説教好きな親戚のオジサンからでした(笑)。

さて、いろんな方からいろんな言葉を頂戴したかと思いますが、一先輩として僭越ながら、次の先人の言葉を馬の餞(はなむけ)とさせていただきます。

ひとつはシェイクスピアハムレット』から。
宰相ポローニアスから、旅立たんとする息子レアティーズへのはなむけの言葉です。
ポローニアスは、ハムレットの恋人・オフィーリアの父であり、レアティーズはオフィーリアの兄です。

さあ、父からの祝福だ。
ついでに二、三、言っておきたいことがある。しっかり胸に刻みつけておけ。
思ったことを口に出すな。
とっぴな考えは行動に移すな。
人とは親しめ、だが安売りはするな。
これぞと見極めた友人は決して放さず、
鋼のたがで心に縛りつけておけ。
だが生まれたてのヒヨコみたいな連中にいい顔を見せ
手がしびれるほど握手しまくるのは禁物だ。
喧嘩には巻きこまれぬよう用心しろ。
だがいったん巻きこまれたら、相手が用心するまでとことんやれ。
みんなの話には耳を貸し、自分からはめったに口をきくな。
つまり、人の意見は聞いても自分の判断はひかえるのだ。
財布の許すかぎり着るものには金をかけろ。
だが奇抜なのはやめておけ、上等なのはいいが派手なのはまずい。
服装は人柄をあらわすものだからな。
この点については、フランスの王侯貴族は
趣味の良さと着こなしでは一番だ。
金は借りても貸してもいかん。
貸せば金も友人まで失い、
借りれば倹約精神がにぶる。
なにより肝心なのは、己に誠実であること。
そうすれば、夜が昼につづくように
誰にたいしても誠実にならざるをえまい。
さあ、行け、いまの教えをしっかりと身につけるんだぞ。
(松岡和子訳『ハムレットちくま文庫版より)

ポローニアスの言葉につづいて、民俗学者宮本常一の父親の言葉。
その言葉は常一が16歳のとき、故郷の周防大島を離れて、大阪の逓信講習所に入所する際に餞(はなむけ)として、父の善十郎からおくられました。

  1. 汽車に乗ったら窓から外をよく見よ、田や畑に何が植えられているか、育ちがよいかわるいか、村の家が大きいか小さいか、瓦屋根か草葺きか、そういうこともよく見ることだ。駅へついたら人の乗りおりに注意せよ、そしてどういう服装をしているかに気をつけよ。また、駅の荷置場にどういう荷がおかれているかをよく見よ。そういうことでその土地が富んでいるか貧しいか、よく働くところかそうでないところかよくわかる。
  2. 村でも町でも新しくたずねていったところはかならず高いところへ上ってみよ、そして方向を知り、目立つものを見よ。峠の上で村を見おろすようなことがあったら、お宮の森やお寺や目につくものをまず見、家のあり方や田畑のあり方を見、周囲の山々を見ておけ、そして山の上で目をひいたものがあったら、そこへはかならずいって見ることだ。高いところでよく見ておいたら道にまようようなことはほとんどない。
  3. 金があったら、その土地の名物や料理はたべておくのがよい。その土地の暮らしの高さがわかるものだ。
  4. 時間のゆとりがあったら、できるだけ歩いてみることだ。いろいろのことを教えられる。
  5. 金というものはもうけるのはそんなにむずかしくない。しかし使うのがむずかしい。それだけは忘れぬように。
  6. 私はおまえを思うように勉強させてやることはできない。だからおまえには何も注文しない。すきなようにやってくれ。しかし身体は大切にせよ。三十歳まではおまえを勘当したつもりでいる。しかし三十すぎたら親のあることを思い出せ。
  7. ただし病気になったり、自分で解決のつかないことがあったら、郷里へ戻ってこい、親はいつでも待っている。
  8. これからさきは子が親に孝行する時代ではない。親が子に孝行する時代だ。そうしないと世の中はよくならぬ。
  9. 自分でよいと思ったことはやってみよ、それで失敗したからといって、親は責めはしない。
  10. 人の見のこしたものを見るようにせよ。その中にいつも大事なものがあるはずだ。あせることはない。自分のえらんだ道をしっかり歩いていくことだ。

「世間師」だった善十郎の、わが子にたいする慈しみと思いやりに充ち満ちた10ヶ条です。

ぼくは、とくに10番目が好き。
多くのモノやコトが消費されていくその流れに、自分の両眼を奪われてはならないのです。

民俗学の旅 (講談社学術文庫)

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旅する巨人―宮本常一と渋沢敬三 (文春文庫)

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