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積ん読王の 自由画帖

〈読み、考え、旅をし、見て、話して、書く〉同時代ノート。

【折々の本棚 #127】林宏樹『近大マグロの奇跡』で、読書会をします

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林宏樹近大マグロの奇跡 完全養殖成功への32年』(新潮文庫)。

この日、盛り込まれていたのは中トロだった。醤油につけるとぱあっと脂が皿の中に広がる。一方で醤油をはじく身の表面を見て、私はもう味を確信していた。付着の分布が均一なのだ。脂が表面で自己主張することなく、赤身の細胞の間に宿っている食感がある。口にして、それは確信に変わった。繻子のような舌触り。いかなる夾雑物もない。きわめて均質な、完成度の高い味だ。赤身の持つあのヘモグロビンの香りと、大トロの猥雑といっていい脂肪ののたくり具合の双方を兼ね備えている。

こよなく食を愛するコラムニスト、勝谷誠彦のあとがきでこう描写されたマグロが、近畿大学水産研究所で要所されたマグロ、「近大マグロ」である。
勝谷の手練れの文章を目でもって玩味しつつ、いっぽうでぼくの舌がその味を求めている。

漁獲量激減、生態ほぼ不明、国際的な漁獲規制が厳しいクロマグロの「完全養殖」に、近畿大学が挑んで32年。
2002年にようやく達成されたその道は、そこまでの数字が示すとおり、てがけた当初は「夢のまた夢」だった。

「完全養殖」というのは、最初の稚魚は天然界から獲るものの、その後はその稚魚を成魚にまで育てて産卵させ、その卵を人工孵化させて成魚に育て、また産卵させ・・というサイクルのことを意味する。つまり、天然界からはいっさい漁をしないのである。そんなサイクルが成立できるのか。

さて、なぜ近大はその「夢のまた夢」に挑んだのか。
そして、どのように成功したのだろうか。
なとど書くと、いかにもビジネス書っぽい見方にとらわれて、この息の長い物語をつまらなくしてしまう気がする(もちろん、そういう見方も必要だけれど)。
近大マグロに携わった者たちは、自らを「羊飼い」にたとえて、みずからを「魚飼い」と称した。この本には、「魚飼い」たちの矜恃と情熱が、そして彼らを支えた人たちの理想が書かれている。

「夢のまた夢」をかたちにする。具体化する。
それはいったいどういうことなのか。

ぼくは、この物語からも、あのフレーズを思い出す。

近道はないが、王道はある。

なぜ関西のローカル大学「近大」が、志願者数日本一になったのか

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究極のクロマグロ完全養殖物語

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「夢をかたちにする」というのは、どういうことなのかをテーマに、本書『近大マグロの奇跡』について、積ん読王がみなさんと語ります。
積ん読王のリテラチャーサークル「ブックブレイク」の2回目を開催します。

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