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積ん読王の 自由画帖

〈読み、考え、旅をし、見て、話して、書く〉同時代ノート。

【刺さる読書023】戌井昭人「どろにやいと」( 第151回芥川賞直木賞候補作を読んでみる #1)

30 自在眼鏡の本棚 33 小説・創作 37 芥川賞直木賞ウォッチ

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戌井昭人「どろにやいと」(「群像」2014.1月号所収)、読了。ようやく手元に届いた、第151回芥川賞候補作の一編。
この作家を読むのは二度目。芥川賞候補には、今回のなかでは最多の5回ノミネート。
前回読んだのはたしか『すっぽん心中』だったが、えっ、これで第40回川端康成文学賞を受賞してるの?
なにかの冗談?

群像 2014年 01月号 [雑誌]

群像 2014年 01月号 [雑誌]

すっぽん心中

すっぽん心中

タイトルの「どろにやいと」は「泥にやいと」と書き、「やいと」というのはお灸のこと。無駄なことや効き目のないことのたとえである。

主人公はボクサーくずれ、チンピラ未満の男だ。「天祐子霊草麻王」という名のお灸を自家調合して、全国を行商し歩いた父親が死んだのを契機に、心機一転その商いを継ぎ、お灸を行商して回るという話である。

ストーリィは日本海に面したある地方(山形?)へ行商にはいったところからはじまる。
父親の残した顧客名簿を頼りに、その村でかつて父からお灸を買ってくれた人たちをひとりひとり訪ねてお灸を売り歩いていくが、そこで奇妙な体験を重ねる。
その村は霊山三峰のもとに位置しており、村人たちは事あるごとに主人公にその山々にまつわるエピソードを語って聞かせる。<人間以外のもの>の支配する土地なのである。いわば<人外境>だ。

そのせいなのか、彼は用事が済んで村を去ろうとするものの、いくつかの「偶然の」出来事に遮られていき、さらには山の中を彷徨う羽目になったり、ヘンな雑草を食べかけて命を落とす危険に会ったりして、主人公はその村からどうにも逃れられない。脱出しようと試みるが、<人外境>がそれを許してくれるはずもなく、主人公は身体ごと飲み込まれていってしまうのである。文字通り「泥にやいと」だ。

若干のホラーと土着的な不条理とを掛け合わせたような不思議な味わいを受けた。その結果ユーモラスにも感じるくらい。「すっぽん心中」よりは格段にいい出来だと思う。なにより読ませてくれる作品になっている。すぐにでも映画にできそうで、そのための素材が散らばっている感じ。最後のほうの、主人公の追い込まれ方も面白い。

しかし全体的に、言葉遣いに神経が行き届いていない感じが拭えない。物語の勢いに押されて言葉をおざなりにしている気がする。ところどころで、作者がいいたいことを作者自身がはっきりと表現してしまっている。
不思議な村は「現実感を削がれる」感じであり、最終的にはこの村は主人公を「逃がさな」いことを知る--。
なんてなことは、作者が書いてはいけない。書かずに、読み手にそう思わせなければならないでしょう。
それは登場する素材にたいしても同じ。前作よりは格段の面白さを秘めているのに、それらを生かし切れてない。なので小説全体的に弛緩している印象がどうしても拭えない。
ぬるめのホラー小説といったところでしょうか。