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積ん読王の 自由画帖

〈読み、考え、旅をし、見て、話して、書く〉同時代ノート。

【刺さる読書#015】 鎌倉幸子『走れ! 移動図書館』に込められた、「本のチカラ」への思い

10 武蔵小杉読書会 35 ノンフィクション・記録 30 自在眼鏡の本棚

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鎌倉幸子『走れ! 移動図書館 本でよりそう復興支援』(ちくまプリマー新書)、読了。なにより、副題の「よりそう」という字句がいい。その人の横にいる、という感じがでている。押しつけがましくない。ひらがなであることが、優しさを感じさせる。

走れ!移動図書館: 本でよりそう復興支援 (ちくまプリマー新書)

走れ!移動図書館: 本でよりそう復興支援 (ちくまプリマー新書)

一昨夜、著者の鎌倉さんをお招きして、この本をテキストに読書会を行った。

・第48回 こすぎナイトキャンパス読書会のご案内
http://ksgnc.hateblo.jp/entry/20140529/1401312244

参加者は20名近く。若い方たちが比較的多かった。
読書会では通例、参加者ひとりひとりにぼくから感想や印象などを訊くという体裁をとっているが、今回は著者の方がいらしていただけたということで、

  1. 著者のキーノートスピーチ(「本の力 東北での移動図書館プロジェクトから考えたこと」)
  2. 参加者から著者へ質問タイム

に急遽プログラム変更して、進行した。

鎌倉さんは現在、公益社団法人シャンティ国際ボランティア会 広報課長兼東日本大震災図書館事業アドバイザー。
青森県出身。1999年3月シャンティ国際ボランティア会に入職。同年4月よりカンボジアに赴任し、図書館事務を担当。2011年1月以来、広報課長を務めており、東日本大震災発生後に、岩手事務所を立ち上げ、「いわてを走る移動図書館プロジェクト」を実施。本の貸し出しや、地域のみなさんが集まって語れるスペースづくりを行っている。

事前の打合せではじめてお目にかかったときもそうだっだが、さすが国際協力NGO所属の広報担当なだけいらっしゃって、終始丁寧かつフレンドリーに受け答えをしていただいた。
なによりパワフル、そしてチャーミング。
二次会にもご参加いただき、最後の最後まで参加者の方ひとりひとりと交流を深められていた。その熱心さ真摯さに、主催者側としては感謝の念で、ただ頭(こうべ)を垂れるばかりである。

「北」をめざせ

東日本大震災直後、被災者の心の回復のために、「本」を届ける移動図書館プロジェクトがに立ち上げられた。本書は、本の持つ力を信じて行われた、ボランティア活動の誕生から現在までの記録だ。
本の構成は大きく2つ。前半は、移動図書館プロジェクトの誕生と現在。後半は、本を中心とした移動図書館のエピソードである。

著者の所属する「シャンティ国際ボランティア会(SVA)」(以下、シャンティ)は、1981年タイに流れたカンボジア難民の救援活動のため設立された。
現在は、タイ、カンボジアラオスミャンマー難民キャンプ、アフガニスタンにて、教育・文化支援の活動を行っている。メインの事業は、図書館活動。図書館建設、学校図書室の設置、絵本や紙芝居出版、図書館員養成である。

国際的には知名度も経験もあるが、日本ではあまり知られていない団体。
ただ、シャンティはメインの事業こそ海外での図書館支援事業だが、国内では阪神淡路大震災以降、緊急救援室を設置、国内外問わず災害現場での緊急救援の活動もてがけている。
その経験はあった。

震災翌日午後には日本全国各地のNPO/NGO団体が連携しはじめて、「どこがどんな支援をし、とごに行くのか」が話し合われていたという。
そして、現地の状況その他錯綜し、正確に把握しづらいなかで、救援経験の浅い団体は仙台を目指すだろうから、経験のある団体は、それより北をめざすということになったという。
著者自身も青森県出身で、家族親族の安否確認が難しいなか、もとより他人事ではなく心中穏やかならぬものがあった。

なぜ図書館を再開?

震災から3週間、岩手県に入り、現地で被災者救援活動をしていた鎌倉さんは、気仙沼市気仙沼図書館を訪れる。気仙沼図書館は震災後まもない3月30日に再開をしたというので、気になっていたのだ。
津波などにより、図書館の上屋自体はもとより、多くの本が流されたり汚れたりして読めなくなってしまった。図書館に従事している人のなかには亡くなってしまった方々もいる。
本書では、岩手県内の図書館の被害状況(2011.4.30時点)の一覧を載せているが、そこから読み取れる状況はなんとも痛々しい。

しかし、物資支援もままならないなかで、なぜ図書館を再開するのか? 
本よりもまず届けるべきものがあるのではないか?
その疑問を胸に訪れた鎌倉さんに、気仙沼図書館の館員はこういった。

「食べ物は食べたらなくなります。でも読んだ本の記憶は残ります。だから図書館員として本を届けていきたいのです」

その言葉は、鎌倉さん自身が以前カンボジア難民キャンプで聞いた、女の子の言葉と重なった。

「お菓子は食べたらなくなるけど、絵本は何度も読めるから好き」

かつて、古代エジプトのテーゼ図書館入り口に掲げられていたのは「図書館」ではなく、「魂の診療所」だったという。

思いは持つが、思い込みは捨てる

東京に戻った鎌倉さんに上司から、東北における事業を考えろという業務命令が届く。
自分としても、これまで図書館事業を手がけてきた経験があるから、図書館関連の支援事業をすべきなのか?
同時に、気仙沼図書館員の方の言葉が頭の中をぐるぐると巡る。
しかし、鎌倉さんは軽軽に答えを出すことはしなかった。

「思いは持つが、思い込みは捨てる」

図書館事業を手がけてきた団体だからといって、積み重ねてきた体験に簡単に乗っかるのは危険だ。一度リセットすべきだと彼女は考えていた。

だがしかし事業形成調査で再度岩手県を訪れ、そして東京に戻ってきた彼女のこころは決まっていた。
事業内容は、「仮設住宅団地を巡回する移動図書館活動」。
目標は、「図書館活動と付随する活動を通して、読書の機会を提供する」こと。

5月の理事会で承認を経て、「いわてを走る移動図書館プロジェクト」として、移動図書館がじっさいに動くまでは、もう一気呵成である。

「約束」の重み

移動図書館とは、

書籍などの資料と職員を載せた自動車や船などを利用して図書館を利用しにくい地域の人のために各地を巡回して図書館のサービスを提供する仕組みである。
英語では移動手段として自動車が用いられることが多いことからbookmobile(BMと略称される)あるいはmobile libraryと呼ばれている。日本ではこれを直訳して自動車図書館あるいは自動車文庫とも呼ばれている。
日本の公立図書館は法律によってこのサービス提供に努めるよう定められている[2]。しかし現状は分館の設置が進んだことやその他諸般の事情により減少傾向にある。(Wikipediaより)

移動図書館事業をはじめるにあたって、鎌倉さんに投げかけられたのは、「約束」という言葉の重みではなかったか。

移動図書館というのは、雨の日だって雪の日だって、決められた曜日の決められた時間、決められた場所に必ず行くことになっている。
「いくら広報誌で運行時間の変更のお知らせしても見ていない方もいる。『待っていたのに来なかった』という連絡が入ることもあるのです」と経験者は語った。

移動図書館は、また一過性のイベントはではない。
図書館とは「図書館と利用者が約束を守り続けること」で成り立っていると鎌倉さんはいう。約束を守る繰り返しがあって、「あの人たちはいつも来てくれる」という安心感、信頼感が生まれる、と。
「最低二年は続けます」と鎌倉さんが自治体の方にいうと、「そのくらいなら・・・。でも、やめない覚悟を持って下さい」と返答された。

「本が読みたい」というなら、図書館というスタイルではなく、本自体をあげたらいいじゃないかという声が多い。失礼ながら、ぼくもそういう意見だった。
しかし、地元のお母さんたちはそれを否定する。
そこには「支援漬け」という現実がある。子どもたちがただでモノをもらうことに慣れすぎてしまい、その癖がいったんついてしまうと、もとに戻すのがとても大変なのだという。

だから、図書館というスタイルで、本を「もらう」のではなく、「借りる」。
借りたものはきちんと返す。
期限という約束を守る。
みんなのものは大切に扱う。

それは震災前なら、親から当たり前に言われてきたことだった。
その当たり前が崩れてしまったいま、「子どもたちを非日常から日常に戻したい」。お母さんたちの声だった。

支援のための「マニュアル」

鎌倉さんは、この本を「マニュアル」として書き残したかったという。
たしかに、冒頭近くにある「緊急救援時における10箇条」というのは貴重である。
鎌倉さんは、編集者から字数が多いのでどこか削りたいと相談されたとき、「ここだけは削除しないで」とお願いしたという。

そして、NPOが支援事業を立ち上げるためのマニュアルとしての部分も意識したという。
一から支援事業を起こすのは、いったいどうしたらいいのか。どんな品目をどこに協力していただいてどうやって調達するのか。場所は? スタッフは?
すべて詳細とまではいかないが、そのヒントは充分記載されている。

神よ願わくば

鎌倉さんはマニュアルとしてこの本を記したというが、一読しても解るが、とてもその枠では語りきれない、語りきってはいけない内容と重みを持っている。さまざまな視点から議論されるべき多くを持っている。
事実、記憶、人びとの声とその表情、隠された感情。

読書会のキーノートスピーチの最後で、鎌倉さんはこういう一通のメールを紹介してくれた(内容は一部編集)。

陸前高田市被災し、現在他で居住しております。
蔵書をお願いした本は、ドレスデンの無差別爆撃の体験を主題とした小説です。
ドレスデンの無差別爆撃の体験と同じように、陸前高田市の人々は津波という言葉に出来ないような惨事を体験しました。

この小説のなかに、
「神よ願わくばわたしに
変えることのできない物事を受けいれる落ち着きと 
変えることのできる物事を変える勇気と
その違いを常に見分ける知恵とをさずけたまえ」

という文章があります。

私はまだ被災した現状を受け入れることが出来ません。

私と同じように、被災した現状を受け入れること出来ない人々に、引用した文章の叶う日が訪れること願います。

引用元は、カート・ヴォネガット・ジュニアスローターハウス5』(早川書房)である。



http://www.yomiuri.co.jp/book/review/20140311-OYT8T00464.html

  • 走れ東北!移動図書館プロジェクト〔シャンティ国際ボランティア会〕

http://sva.or.jp/tohoku/