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積ん読王の 自由画帖

〈読み、考え、旅をし、見て、話して、書く〉同時代ノート。

【刺さる読書 002】斎藤健一郎『本気で5アンペア 電気の自産自消へ』を読んでみた

30 自在眼鏡の本棚 35 ノンフィクション・記録

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斎藤健一郎『本気で5アンペア 電気の自産自消へ』(コモンズ)、読了。著者は現役の朝日新聞記者で、朝日新聞デジタル版には、彼の紹介ページがある。
http://www.asahi.com/sns/reporter/saito_kenichiro.html

本気で5アンペア: 電気の自産自消

本気で5アンペア: 電気の自産自消

福島で原発事故に直面した新聞記者が、東京本社転勤直後に、電気に対して突然「嫌悪感」を感じたことから、ひとりではじめた「5アンペア契約生活」の顛末。
お手元にある、電力会社からの請求書をご覧頂ければと思うが、多くの家庭では30A(アンペア)~50Aとかの契約のはずだ。著者はその数分の一ていどの契約で、電力の最大消費地である東京で暮らしはじめるのである。

「5アンペア契約があるの、知ってます?」

著者は、最初は東電との契約を解除して「電力ゼロ」生活を考えていた。
と決意は麗しくとも、出勤すればパソコンで電気を使うし、そもそも通勤や仕事で「電車」に乗る。食料品はどうするのか。冷えたモノを店で買って済ますのは、他人様の電力に依存しているだけじゃないか。
そんな上司や同僚のツッコミにさすがに電力ゼロは難しいと折れかかっていたところに、仕事仲間の女性から「5アンペア契約があるの、知ってます?」と教えられる。アンペアは各家庭で一度に流せる電流の上限で、一度に使える電気量をあらわす*1。そして基本料金が無料である。
電話でアンペアダウンの申し込みをすると、東電のカスタマーセンターの女性オペレータは、こういった。「エアコンも電子レンジも、掃除機の『強』も使えなくなります。5アンペアでは、普通の生活はできなくなりますよ」と。
著者は最低限の電力生活をはじめた。電気頼みの日常を見つめ直す生活である。

5アンペア、つまりは最大500Wしか使えないのだが、5アンペアでどのくらいの家電が使えるのだろうか。
もともと5アンペアというのは、物置小屋や集合住宅の玄関、廊下の照明、自動販売機の動力といった使われ方を想定する契約だそうだ。
家庭内の主な電化製品の消費電力は、たとえばオーブンレンジが14アンペア、掃除機13アンペア、ドライヤー12アンペア、エアコンは12アンペアといったあたり。「ドライヤーとレンジとエアコンを同時に使っていたらブレーカーが落ちた」とはよく聞くが、5アンペア契約の場合、これらの製品は単体でさえ使うことができない。
そしていろんな調理家電。電気は扇風機のようにモーターを回すのは得意だが、熱を出す仕事には大量に必要とされる。そのほとんどが、リビングの隅っこでほこりを被ることになった。

さて、その5アンペア契約だが、そもそもそんな契約があるのか。著者もその契約を東電のHPで探すことにさんざん苦労したそうだが、電力料金表には記載がある。窓口オペレータも最初は知らない契約内容だったそうだ。
http://www.tepco.co.jp/e-rates/custom/shiryou/yakkan/pdf/240901kyouku003-j.pdf

電気を自前で

電気頼みの日常を見つめ直すといっても、自然はそんなことは構いはしない。都会の夏は容赦なく、渋谷に住んでいる彼のアパートには涼風をまったくといっていいほどもたらさなかったが、「先人の知恵」を用いてしのぐことに成功する。
だが強敵だったのが冬の寒さ。いろいろと試しても室温は上がらない。そのために彼は、日当たりのいい、そして風通しもいい、お台場に引っ越したりした。
そして5アンペア生活は、やがて電気を自前でつくることに発展していく。

斎藤記者の5アンペア生活は3ヶ月後に、朝日新聞に掲載された(2012年7月26日付朝刊)。
「5アンペア生活は発見に満ちていて飽きることがない」と著者はいう。土鍋で炊いた白飯の美味さ、冷えたコンビニ弁当は蒸してみればいい。脱電気の発見で、生活の幅が広がったことを実感したという。
記事への反響はさまざまだったが、意外と好感を持たれたそうである。ぼく自身は、記者自身が机上の論理におぼれることなく、実体験することへの素直さに、ジャーナリストとしての誠心を感じた。

記事はこう締めくくられている。

遠い目標を、近くにたぐり寄せるのは、政府ではない。我々一人ひとりの暮らしのあり方だと思う。

*1:東電のほか、北海道、東北、中部、北陸、九州の6電力会社では、契約アンペア数に応じて、基本料金を決めている。