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積ん読王の 自由画帖

〈読み、考え、旅をし、見て、話して、書く〉同時代ノート。

横溝正史のブーム ~面白い小説を見つけるために #6

26 面白い小説を見つけるために 30 自在眼鏡の本棚 33 小説・創作

ルパン(モーリス・ルブラン)から、江戸川乱歩(じっさいには読書体験はなかったのだが)と来たが、ここで横溝正史に触れておく。
thx.hateblo.jp

横溝正史作品もまた、ぼくは読んでいない。正確に言うと、何冊か手にとったんだけど難しすぎて歯が立たなかった。父の本棚には、『八つ墓村』や『不死蝶』あたりがあって、ぼくは何回か手にしてみたという記憶はある。

父は小説なんぞ読まない人だったから、本棚にミステリ(当時の探偵小説)があったこと自体が不思議ではある。おそらくは、横溝正史の作品が「横溝正史シリーズ」としてTV放映されたことがきっかけなんだろうと想像するが、さて。

横溝正史シリーズ」はTBS系で毎週土曜日22時に放映されていた。シリーズはシーズン1と2とに分かれ、前者は1977年4月2日から10月1日まで、後者は1978年4月8日から10月28日までの放送である。
シリーズの最高視聴率は41%も獲得したと知って驚いた。もっとマイナな番組だ思っていた。
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ぼくはこれらをほぼ全部観ていると勝手に思っているが、リストを眺めると初回放送の「犬神家の一族」あたりはどうも記憶が怪しい。子どもは早く寝ろと言われていたが、土曜夜は翌日が休日だということもあって、夜更かしを許されていた。
横溝正史シリーズ」が放映されていた当時のテレビ欄の資料があるが、TBSの19:00から22:00に至る番組ラインナップは素晴らしい。これを観たら、寝るわけにはいかないでしょ(笑)。
f:id:zocalo:20161206163810j:plain朝日新聞出版「横溝正史金田一耕助シリーズDVDコレクション 『犬神家の一族 上』プロダクションノート」より)

けれど、夜遅くまで起きている習慣がない子どもにとっては、22時過ぎはなかなか辛いものがある。きっと途中で寝落ちしたりしていたんだろうなあ。

横溝正史のブームは戦後何回かある。「横溝正史シリーズ」がはじまったのは1976年の映画「犬神家の一族」がきっかけだといわれているが、じつはそのときすでに角川文庫での横溝作品は25点を揃え、総計500万部を突破していたという(中川右介角川映画 1976-1986 増補版』(角川文庫)より)。そのブームに乗っかっての「犬神家の一族」の映画化ということになる。

横溝正史は、しかし、1960年代には忘れられていた作家だった。小学生にルパンと明智小五郎は知られていても、金田一耕助はほとんど知られていなかったわけだ。
だが、後に「犬神家の一族」を製作した角川春樹は、世間の注目が「日本の土俗的なもの」に集まっていることを感じ取っていた。

角川春樹は「少年マガジン」での劇画『八つ墓村』が小学生たちの間でよく読まれていることを知っていた。さらに、当時は国鉄(現JR)が「ディスカバー・ジャパン」のキャッチフレーズのもと、大々的なキャンペーンをしており、日本の土俗的なものへの回帰が始まっていた。その一方、角川は出版エージェントを通じてアメリカの出版事情の情報を得ており、オカルトブームが始まっていることを知っていた。(前掲書)

そのオカルトブームの頂点のひとつが、1973年の映画「エクソシスト」である。
横溝正史のブームの下地は整っていた。

角川春樹は、これからは横溝正史だと、横溝邸を訪ねた。角川はてっきり本人はすでに没しており、遺族と交渉するつもりだったところに、当の本人がでてきてびっくりしたという。(つづく)

見たことがないものを生みだす力とは ~小林せかいさんの『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』を読んで

10 武蔵小杉読書会 20 同時代ノート 22 ナリワイ・ノート 30 自在眼鏡の本棚 31 たまビジ(「たまにはビジネス書も読むわよ」)

読書会ファシリテータの穂崎(@xaqihooo)です。
未来食堂」店主・小林せかいさんの新刊『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』*1太田出版)を読みました。

ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由

ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由

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日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2017<食ビジネス革新賞>受賞!

メニューは1日1種だけ。決算、事業書は公開。
ちょっとしたおかずのリクエストができる「あつらえ」。
一度来た人なら誰でも店を手伝える「まかない」。

店主1人、客席12席の小さな定食屋から、未来の"ふつう"が生まれている。
その超・合理的な運営システムと、ちょっとした非常識。
削ぎ落とした果てに見えてきた、業種を超えて注目される"起業"の形。

"誰もやったことのないアイデアを形にするということは、
誰もやっていないゆえに普通とは違うわけで、
イコールそれは弱点にも成り得ます。
だからきっと、「やらない」理由はいくらでも思いつくでしょう。
でも「やらない」と決めるのはぎりぎりまで待ってみませんか。
あなたのアイデアを形にできるのは、あなたしかいないのです。" (Amazonページより)

前著『未来食堂ができるまで』は、小林さんのブログの再編集版でしたが、今回は120,000字の書き下ろしだそうです。
目次を眺めてみます。

  • はじめに
  • 第1章 未来食堂ってどんな店?
  • 第2章 懐かしくて新しい、未来食堂のシステム
    • 1 まかない--50分の手伝いで1食無料
    • 2 ただめし--壁に貼られた1食券を剥がしてもってくれば無料
    • 3 あつらえ--あなたの好みに合わせておかずをオーダーメイド
    • 4 さしいれ--飲み物の持ち込み自由。ただし半分はお店に差し入れ
    • 5 未来食堂らしさ、とは
  • 第3章 見たことがないものを生みだす力
  • 第4章 未来食堂のあれこれ

未来食堂ってなに、と言う方は、いろいろと記事があるので検索してみてください。
tabi-labo.com
career-tasu.com

読む順番は前著からでなくとも大丈夫ですが、この『ただめしを』は未来食堂のシステム自体の本質的なことを語っていることもあり、その前提が書かれている前著を知っておいた方がより理解が深まる・・・というより共感を得やすいと思いますね。

ぼくが大きく考えさせられたのは第3章です。
「見たこともないものを生みだす力」、この章こそが「未来食堂」なるシステムの本質であろうと思います。前章が非常に具体的であるのにたいして、この章はメタ思考の一章ですね。わすが25ページていどの分量ですが、そこに書かれていることはぼくにとっては、牛刀のような重さと切れ味がありました。

「アイデアが現実になるまでの流れ」として、彼女は次のような流れで論を進めていきます。

  • A 息苦しさを見つめ続ける or B 情景をものすごく細かく想像する

  • "1枚の絵"がひらめく

  • 現実に落とし込む(定石編)

  • 現実に落としこむ(独自編)

どこかで聞いたことがあると思いますか?
でも、ここで言われているのは、「見たこともないもの」を生みだす力についてです。しつこいですが、書かれていることは牛刀の抜き身のような重さと切れ味を持った考え(思想)を創出するフレームワークです。

未来食堂には、ビジネスプランの相談に来られる方がいるそうですが、その98%くらいはどこかで聞いたことがある案ばかりだそうで、例えば「お年寄りから子どもまで集まれるような地域カフェをつくりたい」というもの。
そのアイデアが良い悪いというのではなく、「ワクワクして記憶に残るほどの面白いプランなのか」という点で、小林さんは興味もないし意見もでてこないといいます。

世の中には”良い”と言われる考え方や振る舞いがあります。「老人が集まれるのは良い」「子供が集まれるのは良い」「地域活性化は良い」「みんなが集まれるコミュニティは良い」。いわゆる時代の空気といったものでしょうか。そういう、世間の風潮や空気で認められている”良いもの”を組み合わせて発想するのは、たとえると、”良いもの”だけを集めた盆栽の鉢の中でアイデアを練っている状態に思えるのです。
(中略)
本当に世の中にとって見たことのないもの、ワクワクするものを考えたいのであれば、既存の”良い”に振り回されてはいけません。
(中略)
100人中100人が「そういうのいい感じだよね」と共感できる既視感のあるアイデアを、なぜ、”あなたが”実行しなければならないのでしょうか。誰からも褒められるアイデアは危険です。なぜならそのアイデアは、誰もが想像できるレベルの範疇にしか留まっていないということだからです。

なぜ、”あなたが”実行しなければならないのか----。
牛刀の切れ味は生半可なものでは、ありませんでした。

*1:このタイトルが決まるのに12時間かかったそうです。